Share

第15話 秋山

Author: 月歌
last update Huling Na-update: 2025-07-23 10:48:28

(速水 視点)

三原が苦い顔で2号室を見つめていた。

トラブルを避けるためにも、三原と2号室の彼との関係を把握しておきたいところだが、簡単には聞き出せそうにない。僕は三原の表情をうかがいながら、慎重に口を開いた

「2号室の人と三原はどういう関係?」

「どういう関係かと問われると……ただの知り合いとしか言いようがないな」

三原は少し言い淀んでから続けた。

「名前は、秋山剛(あきやま つよし)。――秋山の父親は、西成の風俗店で雇われ店長をやってたんだが、俺の母親と出会ってから……売上金の一部をくすねて、母親に貢いでたんだよ。たぶん、母親と親密な関係になってたんだと思う」

三原の母親が関わっているなら、『かさぶらんか』の経営者として話を聞くべきだ。でも、三原の顔を見て口ごもってしまう。僕の様子を見て三原は自嘲気味に笑い話を継いだ。

「もしかしたら……俺の母親が、売上金の使い込みを唆したのかもしれない。でもな、男の使い込みが店のオーナーにバレて、自殺しちまったんだ。一人息子の秋山剛を残して、な」

「自殺」

「ああ。せめて生命保険にでも入ってくれていたら、秋山も救われたと思う。でも、何もなかった。秋山のおやじは借金だけ残して……死んじまった」

「秋山は財産放棄とかできなかったの?相手がまずいやつだった?」

「風俗店のオーナーがまずいやつで、しかも……秋山を囲おうとしてた」

「え……そうなの?」

監視カメラから見ただけだが、秋山は体格がいい。だから、囲いの対象にはならないと思ってた。でも、実際には性奴隷として働いているので、そういう需要もあるって事だ。

「人の好みはそれぞれだからな。体格のいい秋山を拘束して、無理やりセックスしたいって変態もいるんだよ。ーーしかも、その風俗店のオーナーに囲われた性奴隷は、すぐ壊れることで有名だった。やばい薬を打ちまくられて、尻掘られて殴られて。……廃人どころか、死んだやつもいるって噂だ」

「めちゃヤバいやつだ。……よく秋山はそいつに囲われずに済んだな」

三原は少し俯いて口を開いた。

「同じ頃に……俺のおやじが死んだ。おやじの形見分けで、俺は初めて青山組の屋敷に呼ばれた」

「形見分けがあったのか。ま、囲われ者の僕は知らなくて当然か。で、屋敷に君を呼んだのって……青山清二さん?」

「よく分かったな、速水」

「清二さんは三原の事を気に掛けているって言
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜   第16話 ムカデ男

    (秋山 視点)"ムカデ男"が今日の最初の客とはついていない。こいつに犯されれば、一日動けないほどの傷を負う。そのせいで、他の客を逃すことになる。――そう考えた瞬間、自分の思考がすでに“性奴隷”そのものになっていることに気づき、吐き気を覚えた。「よう、ひさしぶりだな……秋山?」「三日前にも来ただろ?」「ちっ、性奴隷のくせに媚も売れねぇのか。まあいい、今日お前に会いに来たのは、別れのあいさつをするためだ」意外な言葉に思わず安堵の息を漏らしそうになる。それを隠して男に尋ねた。「ようやく俺に飽きたか?」「まあ、それも多少あるな。ーー『かさぶらんか』のオーナーが正式に決まった事をお前は知ってるか?」「いや」「そうか。ま、性奴隷のお前に知らされないのも当然か。……新しいオーナーは青山組組長の愛人らしい。で、『かさぶらんか』で問題起こしそうな客は全員追っ払いにかかってる。俺もその内の一人だ。ーー丁寧な事に、金と俺好みの新しい奴隷を送ってくれてな、それで手を打つことにした」「……それは良かったな」ーーつまり、こいつはもう俺の前には現れないという事か?心底安堵している自分に苦笑いを浮かべそうになる。父子家庭で育ったが、俺は父親を尊敬できなかった。風俗店の雇われ店長だった親父は、オーナーの“ムカデ男”に殴られ、土下座させられる姿を、何度も俺に見せてきた。怯えてばかりの、小心者の親父。そんな男が――女に貢ぐために、売上金をくすねていたなんて。まさか、そんなことをするとは思いもしなかった。しかも、その尻ぬぐいを俺がする羽目になるなんて……。ヤバい立場に追い込まれた親父は、自殺した。それでも俺は、法が自分を守ってくれると信じていた。……だが、訪ねた弁護士事務所が悪かった。弁護士は、風俗店のオーナーの逆恨みを恐れ、俺を――売った。弁護士事務所に現れた男たちに連れ去らて俺は、ムカデ男が所有するビルの地下に閉じ込められる。ーーそれからの日々は地獄だった。腕にムカデの刺青を刻んだこの男は、ビルの地下で俺を毎日何度も犯した。男は俺を裸にすると両手首をベッドに拘束して、ペニスをねじ込みつづける。初めて男を受け入れた俺の尻は、真っ赤に染まり男のペニスも赤黒く染まっていた。ーーそれでも、男は抜き差しをやめなかった。男は毎日地下にやってきて、体位を変えながら責

  • 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜   第15話 秋山

    (速水 視点)三原が苦い顔で2号室を見つめていた。トラブルを避けるためにも、三原と2号室の彼との関係を把握しておきたいところだが、簡単には聞き出せそうにない。僕は三原の表情をうかがいながら、慎重に口を開いた「2号室の人と三原はどういう関係?」「どういう関係かと問われると……ただの知り合いとしか言いようがないな」三原は少し言い淀んでから続けた。「名前は、秋山剛(あきやま つよし)。――秋山の父親は、西成の風俗店で雇われ店長をやってたんだが、俺の母親と出会ってから……売上金の一部をくすねて、母親に貢いでたんだよ。たぶん、母親と親密な関係になってたんだと思う」三原の母親が関わっているなら、『かさぶらんか』の経営者として話を聞くべきだ。でも、三原の顔を見て口ごもってしまう。僕の様子を見て三原は自嘲気味に笑い話を継いだ。「もしかしたら……俺の母親が、売上金の使い込みを唆したのかもしれない。でもな、男の使い込みが店のオーナーにバレて、自殺しちまったんだ。一人息子の秋山剛を残して、な」「自殺」「ああ。せめて生命保険にでも入ってくれていたら、秋山も救われたと思う。でも、何もなかった。秋山のおやじは借金だけ残して……死んじまった」「秋山は財産放棄とかできなかったの?相手がまずいやつだった?」「風俗店のオーナーがまずいやつで、しかも……秋山を囲おうとしてた」「え……そうなの?」監視カメラから見ただけだが、秋山は体格がいい。だから、囲いの対象にはならないと思ってた。でも、実際には性奴隷として働いているので、そういう需要もあるって事だ。「人の好みはそれぞれだからな。体格のいい秋山を拘束して、無理やりセックスしたいって変態もいるんだよ。ーーしかも、その風俗店のオーナーに囲われた性奴隷は、すぐ壊れることで有名だった。やばい薬を打ちまくられて、尻掘られて殴られて。……廃人どころか、死んだやつもいるって噂だ」「めちゃヤバいやつだ。……よく秋山はそいつに囲われずに済んだな」三原は少し俯いて口を開いた。「同じ頃に……俺のおやじが死んだ。おやじの形見分けで、俺は初めて青山組の屋敷に呼ばれた」「形見分けがあったのか。ま、囲われ者の僕は知らなくて当然か。で、屋敷に君を呼んだのって……青山清二さん?」「よく分かったな、速水」「清二さんは三原の事を気に掛けているって言

  • 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜   第14話 モニタールーム

    (三原 視点)モニタールームの内部は薄暗かった。電気代を節約するため、最小限の照明しか点いていない。速水は足を止めて、部屋の入口で躊躇いながら俺に声をかけてきた。「もう少し、照明を明るくしてくれないかな、三原?」「電気代がもったいないんだよ」「……いや、まあ、それも分かるんだけど。その……僕、視野が一部欠けてるんだ。この薄暗さだと、ちょっと見えにくい部分があって。……うーん、まあ、これぐらいなら大丈夫かな」「あっ、そういう事情があるなら早く言えよ。ちょっと待って、照明明るくするから」「ああ、大丈夫だって――うわっ、おおお!?」速水はまったく大丈夫じゃなかった。俺が床に直に敷いていた布団につまずき、そのまま頭から突っ込んで倒れ込んだ。慌てて駆け寄ると、速水はぼうぜんとしたまま敷布団に寝転がっている。「……ねえ。なんでモニタールームに布団が敷いてあるの?」「しゃあねーだろ。今、ここに住んでんだよ。自宅は借金返済のために手放したから、住めるのここしかないの。シャワー室もあるし、まあなんとかなる。それより、布団が見えないって……どんだけ視野が欠けてんだ?大丈夫かよ?」そう尋ねると、速水は布団に寝転がったまま、少し恥ずかしそうに顔を赤くした。その姿が妙に色っぽく見えて、俺は不意にどきりとする。「いや、布団につまずいたのは……ただの不注意。心配かけてごめんね、三原」「……いや、別にいいけど。しばらくそこに寝てろ。今、照明つけ直すから。なあ、その視野の欠損って、進行するようなもんなのか?」「ん? ああ、大丈夫。進行はしないよ。昔、柱に頭ぶつけてさ、眼底出血して一部だけ視野が欠けたんだ」「お前、意外と抜けてるな」俺が照明を明るくすると、速水は布団から身を起こし、周囲を見渡しながら口を開いた。「まあ、抜けてるけど。でも、怪我を負ったときは必死だったんだよ。性奴隷だった時の僕の主治医が、いきなり変態野郎になって襲いかかってきて。……いや、もともと変態だったんだけど。とにかく、そいつが僕のアナルに器具じゃなくーー自分のペニスを入れようとしてきたんだよ!あの時は参った。で、そいつから逃げようとして、柱に頭ぶつけてこうなったわけで……」「……」まずい……速水の話が壮絶過ぎて言葉が出てこない。俺が黙っていると速水が困り顔で口を開いた。「……三原、黙り

  • 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜   第13話 三原と花屋

    (速水 視点)「あ、三原さん。店先で騒いでごめんね」「いえ……大丈夫です」僕と竜二のつまらない会話の間も、三原は黙って待っていてくれた。三原進は母親の三原沙月より辛抱強いタイプのようだ。それでも、僕が声を掛けると、三原はすっと視線を逸らされてしまう。ーーまあ、僕の自殺未遂が原因で『かさぶらんか』の経営が傾いたわけだから、三原に嫌われていても仕方ないか。それにしても……何もない店だな。「ねえ、三原さん。『かさぶらんか』って花屋だよね。花が全く見当たらないのだけど……なんで?」「はぁ?そんなの……金がないからに決まってるだろ。次の買主が花屋を経営するとも思えないからって、借金取りが花を全部回収していったよ」「え、そうなの?……僕は花屋を経営するつもりなんだけど」「え?」「僕は花屋『かさぶらんか』を経営するんだよ」店の傾きかけた看板を指さすと、三原もつられるように視線を向けた。色褪せた赤い板には、かすれた文字で『かさぶらんか』と記されている。ーー金具ごと抜け落ちそうなほど傾いていて、見上げているだけで不安になるような代物だった。「文字はかすれているけど、レトロでいい看板だね。綺麗にしてあげたら、いい感じなると思わない?」「『かさぶらんか』の名前で、花屋を経営するつもりなのか、速水。……あ~、速水さん」「速水でいいよ。年齢あんまり変わんないでしょ?僕も三原って呼んでいいかな?」三原とは長く付き合うつもりだから、呼び捨てのほうがしっくりくる。彼は黙って従うことにしたようで、静かに頷いた。その様子を見ながら、僕はさらに問いかける。「ねえ、地下の風俗店の入り口はどこにあるの? 花屋の奥?」「ああ、花屋の奥に店と繋がる扉はあるけど、こっち側からしか開かない仕組みになってる。風俗店の入り口は、このビルの反対側にあるよ。……って、速水も一瞬だけ勤めてたじゃないか、その……」三原が言葉を濁したので、僕が代わりに続きを引き取った。「……性奴隷としてね。でも、あの時はパニックになっていたから、風俗店の入り口とか全く覚えてないんだ。それに君のお父さんに囲われてからは、屋敷から出ることもなかったから」「……深窓の令嬢」三原の言葉に僕は思わず顔を顰める。性奴隷を深窓の令嬢とは……皮肉にもほどがある。僕は思わず三原を睨みつけていた。「深窓の令嬢が、

  • 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜   第12話 三原

    (三原進 視点)花屋『かさぶらんか』が売れた。地下の風俗店も、まとめて。そして――付属品だった俺も、売られた。『かさぶらんか』は、かなりの安値で出ていた。それでも、まさか俺と同じ年齢の男が買い手になるとは思わなかった。速水の今の姿は知らない。けれど、過去の速水のことは、よく覚えている。◇◇◇◇俺は、随分昔に一度だけ、あいつに会ったことがある。母が「初物を手に入れた」と嬉しそうに話していたのを、今でも覚えている。その当時の俺はもう母親の商売を理解していた。だが、"初物"の速水は自分がこれから何をさせられるのか、理解していない様子だった。母親から教わる『アナル』という言葉さえ知らぬようで、困惑の表情を浮かべていた。今から男たちに犯され、性奴隷に堕ちるとも知らずに、速水は熱心に母親の言葉に耳を傾ける。ーー今までも、そんな子供はたくさん見てきた。それが俺の日常で……それでも、速水の事を覚えていたのは、やつが俺好みの容姿をしていたからだ。今も昔も男に興味はないが、それでも、速水は……とにかく可愛らしかった。まあ、それだけならきっと俺の記憶には残らなかったと思う。俺の記憶に残った原因はーー速水が勤務一日目で店を辞めたからだ。あいつは俺のおやじに店で犯され、その日の内におやじに手を引かれて店を出ていった。速水が親父の囲い者になった――そのことを、悔しそうに母から聞かされたのは、それから数日後だった。母は、死ぬまで速水のことを口汚く罵り続けた。「あいつが自殺未遂なんてするから、お前の父親に見限られたんだ」そうやって、何度も俺に恨み言をぶつけてきた。俺にとって、そんな母の存在は鬱陶しくて仕方なかった。親父に見放されてから、俺たち親子の生活は一変した。『かさぶらんか』の経営は傾くばかりだったのに、母は意地でも店を閉めようとはしなかった。たぶん、それは親父への意地だったのだと思う。元愛人としての、見返してやりたいという意地。「あなたの助けなんかなくても、私は立派にやっていける」――母は、そう言いたかったのかもしれない。けれど、現実はその逆だった。母は借金まみれの『かさぶらんか』を残して、死んだ。……結局、俺はそのつけを払わされることになった。『かさぶらんか』は、付属品の俺ごと売りに出された。もしも店がいい値で売れなければ、俺は内臓を切

  • 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜   第11話 花屋『かさぶらんか』

    (青山竜一 視点)叔父は、すっかり速水の保護者気取りだ。その態度に、ひどく苛立つ。――速水を、一度抱いただけで何がわかる。殴って、無理やり抱いたくせに。……そんなの、おやじと何も変わらないじゃないか。それなのに――速水はもう、すっかり懐いている。そのことが、また俺を苛立たせた。不機嫌なまま叔父を睨みつけると、今度は叔父がわずかに目を細めて睨み返してくる。――次期組長に逆らうな。その視線が、無言の圧力となってのしかかる。わかっている。そんなことは、百も承知だ。叔父が速水の味方になってくれたことは、本来なら何よりの収穫のはずなのに――それでも、まるで恋人を奪われたかのように、胸の奥がきしんだ。「う~ん、じゃあ、僕がお店を開きたいと言ったら、清二さんが資金を提供してくれるの?」「その前に、まずはどんな計画なのか聞かせろ。その上で、資金提供を考える。採算の取れないものに金を出すのは無駄だからな」速水は叔父の返事に対して、少し考え込んだ後に口を開いた。「竜二さんから聞いたんだけど、花屋の『かさぶらんか』と、その地下にある風俗店が売りに出されてるって。……それに加えて、『かさぶらんか』と風俗店の経営者だった三原進(みはら すすむ)も、売りの対象になってるって話も聞いた」「……竜二のやつ、そんな話をおまえにしたのか」俺は思わず舌打ちをしていた。「僕は花屋の『かさぶらんか』と地下の風俗店の両方が欲しい。竜二さんの話だと、かなりの安値で売り出されていると聞いたけど……駄目かな、清二さん?」叔父は、難しい顔をしていた。確かに、あの物件は安値で売られている。だが、それにはそれなりの理由がある。――速水は、頑固だ。一度心に決めたら、そう簡単に引かない。だからこそ、俺が叔父の代わりに説明するしかなかった。速水に、『かさぶらんか』をあきらめさせるために。「速水、あの店はやめておけ。花屋『かさぶらんか』は、地下の違法風俗店の利益で維持されてたんだ。だけど今は、その売り上げじゃもう店を支えきれない」「どうして? 地下の風俗店、今でも営業してるんでしょ?」「ああ、確かに営業はしてる。けど……昔みたいに“ガキ”は扱ってないんだ」「……? 今は、何を扱ってるの?」言葉に窮した俺の言葉を継いだのは補ったのは叔父の清二だった。それもひどい言葉で。

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status